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赤を超えて - 024SEP01
イ・セヒョン (Lee Seahyun)
イ・セヒョンの芸術的歩みは、軍服務中に遡る。非武装地帯を暗視スコープで観察していた際、彼は深紅に染まった超現実的な風景と出会った。

この生々しい体験が、彼の代表作《Red Landscape(赤い風景)》シリーズの種となった。それ以来、彼は飽和した赤を基調とし、東アジアの山水画の伝統と国家分断という政治的・感情的現実を融合させた独自の絵画言語を築き上げてきた。

構図は古典的な山水画の形式に則っているが、よく見ると戦艦や戦車、廃墟、砲火の残響といった、不穏なディテールが潜んでいる。これらのイメージは、静かに葛藤と分断を想起させる。

彼の作品において、自然はもはや静謐な背景ではなく、危機や不安、そして暴力の残滓に取り憑かれた地形となる。

今回のビエンナーレで発表される作品では、濃密な深紅のフィールドと緻密に計算された余白が、一層の緊張感を生み出している。その中に浮かび上がる島の姿は、分断の境界であると同時に、まだ到達していない世界を想像するための場でもある。

イ・セヒョンの風景画は、現実の単なる再現ではない。そこは記憶と象徴が交錯する層状の空間であり、歴史の傷跡、人間の感情の重み、そして儚くも持続する希望の存在が共に息づいている。