境界11>平和・調和
ジェイムソン・ヤップ(Jameson Yap)
この空間では、マレーシアのアーティスト、ジェイムソン・ヤップによるインスタレーション作品《唐詩との対話(Dialogue with Tang Poets)》を展示しています。
ヤップは、中国の伝統的な書を現代的視点で再解釈し、文字と絵画、抽象と感情が流れるように融合する独自の作品世界を築いてきました。
長年の瞑想的修練の末に彼が創出した書体「川筆(River Stroke)」は、その名の通り水のように流れ、生命力と呼吸を宿した筆致で構成されています。
彼の手にかかると、書は単なる文字の記述にとどまらず、感情に満ちた絵画的空間へと変容します。幾重にも重ねられた筆致、にじむ墨、余白のリズムが詩的な体験を誘発し、「読む」行為が「感じる」体験へと移行します。
ヤップは、アマゾン川をはじめとする川のエネルギー、すなわち流動する生命力を墨の密度とリズムに投影し、中国古典詩の感性をグローバルかつ現代的な文脈へと架橋します。
彼にとって「隣人(neighbor)」とは、単なる地理的な存在ではなく、文明・歴史・時間を越えた「共鳴の可能性」でもあります。
中国書道の伝統に根差しながらも、ヤップの作品にはマレーシアの多文化的なアイデンティティと、今日的な感受性が宿っています。彼は、東アジアと東南アジアの文化が共鳴する共有の芸術空間を提案します。
ヤップの作品において、言葉はイメージとなり、
一筆一筆が詩の一節となります。
伝統と現代性、文字と感覚の境界をやわらかく横断しながら、
ジェイムソン・ヤップは新たな扉を開きます――
見ること、感じること、そして拡張された心で記憶することへの。