風はどこから来て、どこへ行くのか
チェ・ジュングン(Choi Junkun)
この空間では、存在、時間、そして「空(くう)」についての深い思索を促す、静謐ながらも深い余韻をもたらすチェ・ジュングンの絵画作品を紹介します。
画面には、わずかに数個の重たい石が、ほとんど白一色に近い空間に点在しています。一見すると、その構成は極めてミニマルで静けさに満ちているように見えるかもしれません。しかしこの静寂は、決して「無」ではありません。石と石のあいだにある「間(ま)」や「空白」は、存在とは何か、自然とは何か、思考とは何かといった問いをそっと投げかけてきます。
この作品の着想は、作家が済州島で出会った黒い玄武岩に基づいています。伝統的な東アジアの墨を用いて描かれてはいますが、彼の西洋画のバックグラウンドが、構図に独特の密度と空間的な緊張感を与えています。そこには静謐と緊張が共存し、見る者の感覚を深く揺さぶる力があります。
キャンバスには、白の顔料が何層にも重ねられ、その上に希釈した墨と細筆を用いて石が描かれます。点描に似た技法で、一つ一つの石が時間をかけて丁寧に表されています。これは単なる描写ではなく、時間の堆積であり、存在の痕跡なのです。
作品のタイトルは、古典的な一節に由来します。
「風はどこから来て、どこへ行くのか。」
石ひとつ、空白ひとつが、この問いの残響となり、無常と哲学的な内省の余韻を空間に広げていきます。
この場所に立つあなたは、ひとつの石から旅を始めることになります。そしてその旅は、外へではなく、内側へと向かっていきます。石はもはや物体ではなく、思索の起点であり、自己を映す鏡となるのです。
どうか、少しだけ足を止めてみてください。
かつて風が通り過ぎたその道筋を見つめるとき、
あなたの中に静かに広がる、心の風景に気づくかもしれません。
この静寂の空間は——
ずっと、あなたを待っていました。