「仁王霽色図」
謙斎鄭敾 – 山水の向こう、現実を抱いた眼
自画像の向かい側、雄大な山勢が霧中に現れ隠れます。謙斎鄭敾の代表作『仁王霽色図』です。黒墨と淡墨だけのこの山水は、風の余韻のように鄭敾の筆先で生き動いています。
鄭敾は朝鮮後期山水画の新道を開きました。従来の中国画風理想郷でなく、実際に見た朝鮮江山を描きました。真景山水は観念でなく現実基盤です。直接登山写生で、朝鮮の土地を朝鮮人の目で描きました。
『仁王霽色図』は雨上がりの瞬間、仁王山の霧と風の流れを込めた作品です。鄭敾特有の節制された筆遣いとスピード感ある墨運用で生き動きます。単純風景でなく、自然と感情の交感空間です。
王室画員でしたが、権力より芸術の真実性に近く、両班出身ながら民衆生活を込めた風景に注目し、水墨で日常風景を詩のように描きました。
海南自然と鄭敾視線は直接触れませんでしたが、根に共通精神があります。実景への畏敬と自然による自己省察です。
今、尹斗緒の自画像が鄭敾の仁王山と向き合う場面前に立っています。二人は無言で見つめ合い、現実と内面、人物と風景を繋げます。
水墨は形態模倣でなく感情であり哲学、世界を見つめる態度です。鄭敾は韓国山水の顔を見つけ、我々の土地の品格を絵で建てました。
謙斎鄭敾は静かに答えます。「ただ、あなたの目で見なさい。」